レンズは資産の時代は終わったのか?「一眼レフVSミラーレス」
レンズは資産
カメラ(ボディ)は消耗品、レンズは資産
・カメラを趣味(または仕事)にする人間は大体この一致した認識を持っている。Nikon Fマウントは50年も続くマウントとして今なお君臨し続けている。(つまり理論上は50年前のレンズだってMFだけど装着できる)
・レンズ交換式カメラという名称があるけれども、実際にはレンズを何年も大事に持っていて、カメラ本体を交換する人が多い。カメラ本体は機能のアップデートによって陳腐化しやすいが(特にデジタルカメラはそう)レンズはなかなか陳腐化しない。カメラは5年未満で1サイクルすることが多いが、レンズは10〜20年は保つことが多い。
・初心者の盲点として、一眼カメラではメーカーごとにレンズがハマる穴(マウント)が違うのだ。つまりニコンのレンズをキャノンで使うことは基本的に不可能であるのだ。
(α7Rと別府の町並み、十文字原展望台にて)
ゲーム機とシェア争い
・ゲーム機では垂直的な互換性(例えばPS3でPS2のゲームができるか否か)の問題は常につきまとうが、大体は一世代前と互換性を保つか、切られる(刷新される)ことが多い。これに不満を持つ人間もいるが、多くの場合、魅力的な新しいソフトが出ることで買い替え(または他社ゲーム機への乗り換え)が起こる。
・そしてこの例では、系のサイクルが比較的早く、メーカーはとにかくゲーム機本体の売り上げが利益に繋がるため、魅力的なソフトを作ってくれるサードパーティを呼び込むことがシェア奪還の決定打になることが多い(MH、FF、DQなどのキラーソフトがある)
・ずっと長く遊べるゲーム機とソフトもあるが、何だかんだみんな新しいモノが好きなので(そして十分手に取れる程度の価格設定がなされているので)各社の新商品が並ぶたびに、激しいシェアの奪い合いが起こる。そして約5年で1サイクルの場合が多いが、前回の勝者が今回シェア1位になるとは限らない。下克上もありうる。
・具体例では、ソニーのPS2とPS3がある。PS2によって圧倒的なシェア差で王者NINTENDOを下し、次期ゲーム機であるPS3の勝利も確実だったソニーだったが(巷では出来レースなんて揶揄されていた)大コケし、Wiiにシェア奪還されたという過去がある。
(久しぶりに買ったNINTENDOのハード)
αショックとマウント刷新
・αショック以降、各社電子マウントに移行することになった時、キャノン(ミノルタもそうだが)は思い切った決断をした。従来のユーザーを捨てるが如く、前マウントとの互換性を無くしたのだ。(もちろんアダプタはあるのだが)
・キャノンがここまで思い切った戦略をとったのは、間違いなく実用的なAFを完成させたミノルタがシェアを大幅に奪ったという事実があるだろう。未来を見据えると、電子マウント化すべきタイミングだとキャノンは確信したのだ。
・一方のニコンは、マウント自体の変更は行わなかった。従来ユーザーを尊重する形、Fマウントの堅牢性などを主張したのでしょうか。(しかし穴の大きさが一緒であっても、50年前のマウントとは似ても似つかぬようにアップデートされていくのだが笑)
・ちなみにかの変態的な旭光学工業株式会社ことペンタックスは、ねじ込み式M42マウント(巷ではオールドレンズのマウントとしても有名)から脱却し、バヨネット式のKマウントに移行。それをそのまま電子マウントにするという、ちょっとだけニコンに似ている歴史を持つ。
(いわゆるαショックを起こしたミノルタAマウントのAFレンズ)
・レンズが資産であるカメラ業界では、レンズも高価で、設計によほどの革新もないのでカメラボディの刷新だけではシェアを奪うのが難しい。ゲーム機のようにシェアの流動性がなく、一度確実に得たシェアで十分に利益が得られる(その体制を盤石にするのがまた大変だが)
・だからこそαショックでミノルタがシェアを獲得したことにキャノンは大きな焦りがあったのでは。
・以来、キャノンは一眼レフ市場でトップを走り続け、それに続くニコンという二強体制になっていく。そしてその中でαショックを引き起こしたミノルタは惜しくもカメラ市場から撤退していくのだ。
昔のレンズだって(オールドレンズ)
・話をレンズの話に戻そう。マウントを変更する事で今までのレンズ資産が白紙になるということが分かったと思う。そうまでしてシェアを奪う意味があるということも。
・しかし近年、そういったマウント変更の煽りを受けてボディを失った古いレンズ(オールドレンズ)に注目が集まっている。フランジバックが短いミラーレスの登場によってアダプタを介して、古いレンズが使えるのだ。(ミラーレスでなくとも使えるが、制限が多い)
・実際のところ、現代に設計されたレンズより劣ることが多いのだが、安価な古レンズを遊びとして、はたまた味として作品作りに使っている人達がいる。
(僕もα7RにCONTAXレンズを付けて遊んでいる)
・おじいちゃんが残したレンズが使えることがあるという、レンズは資産という言葉を正に体現している現象だと私は思う。このように昔のレンズが使えるのは、カメラ側がデジタルになろうと、フィルム時代の遺産を多く引き継いでいることが挙げられる。
・昔のレンズの多くは、35mm判(ライカ判とも言う)に結像するようになっている。今のデジタルカメラの映像素子サイズもそれより小さいm4/3、APS-C、そして35mm判と同じフルサイズで主に構成されている。
・大は小を兼ねると言う言葉通り、35mm判用に設計されているレンズではそれより小さいセンサーサイズにも映るのだ(クロップされることにはなるのだが)
・もしこの逆、つまりレンズのイメージサークルが小さく、映像素子の方が大きかったら。。。映像素子全てに光が当たらないので(端が黒く映る)使い物にならなかったであろう。(そしてこのことが後述するNikon 1の悪夢につながる)
(これまた昔のフィルムカメラ、CONTAX Aria)
マウント更新の波
・なぜここまでマウント変更、そしてレンズは資産と言う話をしてきたのだろうか。それは今、αショックに次ぐマウント更新の波が来ているのだ。二強に対抗すべく、OLYMPUS、Panasonic、FUJIFILM、そしてSONY陣が得意とするミラーレスがじわじわとシェアを伸ばしているからだ。
・ミラーレスでは各社新マウントに移行している。OLYMPUS、Panasonicは共同規格としてm4/3を、FUJIFILMはXマウント(APS-C)、SONYはEマウント(フルサイズ、APS-C)を採用している。ミラーがないことでフレンジバックが短くなり、結局新マウントを採用することになる。
・各社がミラーレスに移行する理由は、もちろんミラーレスの優位性もあるが、それ以上にレフ機で固定されているシェアを崩さなければならないという使命感があったからだ。ミラーレスの移行、すなわち新マウントへの切り替えはそれまでのマウントのユーザーを切り捨てることになるのだが、そこまでしないとレフ機の市場は崩せないという厳しさがあったのではないか。
二強の動き
・今まで一眼レフカメラでシェアを拡大してきたニコンキャノン2強の動きはどうだろうか?共通して言えるのは、一眼レフと食い合いをしないようにレフ機のニッチを埋めるような戦略をとっていることだ。つまりハイエンド機は一眼レフでしか投入していない。ミラーレスは入門機、サブ機という扱いだ。レフ機は長年の蓄積故に完成度が高く、わざわざ発展途上とも言えるミラーレスにリソースを割く必要がないとも言えるだろう。
・二社の立場としては、今までレフ機とコンデジしかなかったカメラ市場に現れたニッチなジャンルであるミラーレスに費やすのは不必要なコストであるし、リソースを割いてまでミラーレスに資金投入するのは、レフ機のシェアを奪おうとしているミラーレス陣営の思う壺であると言えるのでは。新ジャンルで後発のミラーレスより、高性能なレフ機でその市場を抑え込む意図があったのではないかと思っている。
・ニコンはNikon1というブランドを立ち上げ、マウントもミラーレス専用設計となっている。ただし、上記のようにミラーレス陣営に伍するつもりがないという意図があってかレンズ交換式アドバンスカメラという呼称を用いてる。(ミラーレスとは絶対に言わない笑)Nikon1についてはまた後述する。
・市場の流れを非常に敏感に感じ取っているキャノンは、ミラーレスが時期尚早と捉えたのか、m4/3陣営(実質的な初のミラーレス)が2008年に登場し、SONYが2010年に参入したあとも静観し、2012年にEOS Mを発売する。(キャノンのミラーレス機全般に言えるが、多くはベースのレフ機がありそれの小型軽量化という路線を歩んでいる)
またこの翌年にはSONYからミラーレス初のフルサイズ機α7が発売されている。
・二強にとっての誤算は
1.シェア率が低いメーカーの殆どが反レフ機を掲げ早々にミラーレスに移行した
2.それによってミラーレスというジャンルが確立してしまった
3.またメーカー参入が相次いだことで、予想より早くミラーレス機の発展が押し進んだ
4.一眼カメラでの動画撮影の要求が増えた
5.iPhoneなどの高性能カメラを搭載するスマホの普及により、もう一つの柱であるコンデジ市場が大幅に縮小し、小型軽量を売りにするミラーレスVS従来のレフ機という構造を鮮明にしてしまったこと
などがあると思う。
(プリクラ取りに行ったら、中身がEF-Sレンズだった!!)
レンズは資産って本当なのか?
・ここまでマウントの更新、レンズは資産だということを長々書いてきたわけだが、ここに来て本当にレンズは資産なのかという問題があがる。
・レンズが資産だと言えたのは、ニコンがFマウントを堅持してきたこと、キャノンのEFマウントが30年の歴史を持っていることを裏付けに言われているのではないか。
・逆にαショックを引き起こしたミノルタはカメラ市場から撤退し、ソニーに買収された。ソニーもしばらくはαマウント(Aマウント)を維持していたが、最近ではミラーレス用に設計されたEマウントにリソースを費やしている。
・つまりキャノンのEFマウントと同程度の歴史を持つAマウントのレンズは次第に使い物にならなくなってきている。もちろんA→Eマウントの変換アダプターもあるし、他のレンズもオールドレンズ的な使い方はできるだろうが。
・噂では、キャノンもニコンも本格的にフルサイズミラーレス一眼に参入するそう。そしてこのとき新マウントを採用する。ということはしばらくは変換アダプターで凌ぐかもしれないが、いずれ新マウント専用のレンズラインナップが必要になってくる。
・そしたら今までの大量のレンズ群はどうなるのか。。はっきり言って経営体力的にも複数のマウントを並行する事はできないはずだ。入門機やサブ機などならまだしも、自社のハイエンド機のマウントを2つも維持できるとは思えない。
・またレンズはボディほどの刷新がないので、価値が簡単には落ちないと言ったものの緩やかにアップデートしている。特にSONYは数年後にはセンサーの発展により超高画素時代(1億万画素)が来ると予見している。そしてその時代にも対応できるようなレンズ群(GMレンズ)を発売している。(噂では、市販できないがソニーは一億万画素のプロトタイプを作成しており、GMレンズの性能をそのセンサーで裏付けしているとのこと。)
(僕のメイン機、SONYα7R+SEL2470Z。そろそろ新しいのほしい)
(そして、APS-C機や、フィルム、オールドレンズ、などのサブ機達)
フルサイズミラーレス時代
・フルサイズミラーレス機となると既に5年以上先行しいて、レンズも25個揃え、Eマウントの規格開示によりサードパーティをも取り込んでいるSONYとのガチンコ勝負することになる。
・後塵を拝するニコンキャノンといえど、カメラの一流メーカーなので巻き返しは十分可能だとは思うのだが、結局自社の一眼レフとの食い合いが起こる。ミラーレス陣営のシェア拡大(ちなみに最近ミラーレス機のシェアがレフ機を上回った)を阻止しつつ、レフ機の扱いをどうするかに焦点が当たる。過去の遺産としてレフ機の清算を行うのか、ミラーレスを食い止めつつシェアの食い合いに目をつむり、両機のブラッシュアップを行うのか。
・もしガチンコ勝負に負けたとして、その後どう落とし前をつけるのだろうか。例えばフルサイズ機を諦めAPS-Cなどに注力するとして、最初に用意したフルサイズレンズ群を放置するのか。
・僕がこのような危惧を現実に感じたのは、NikonがNikon1からヒッソリと撤退したニュースがあるからだ。経営が落ち込み、人員整理までしたニコンだったが魅力的なフルサイズ機D850で巻き返しを図った。しかし経営体力がまだあるとは言えない。そんな中でミラーレスであるNikon 1からの撤退が知らされた。
・先ほどオールドレンズの下りを話したが、古いレンズとの互換性があるのはデジタルがフィルム時代の規格を引き継いだからだ。
・Nikon 1の場合はどうだろうか。レンズ交換式カメラの中では一番小さい1インチサイズに結像するようになっている。それはハイエンド機はレフ機、ミラーレスは小型軽量を活かしたサブ機(そしてセンサーサイズが小さいほど望遠レンズの設計に有利になる)を考えたニコンの戦略だろう。
・ただ今、販売終了したNikon 1のレンズ群はどうなるのか。フランジバックの長いレフ機のレンズをミラーレスに変換するのとは訳が違い、ミラーレスレンズ同士の変換は簡単ではないだろう。(お互いフランジバックが短すぎるから)それ以上に問題なのが、1インチセンサーを採用したばっかりにそれ以上のサイズのセンサーに使えないことだ。とすると、文字通りNikon 1のレンズ群はゴミクズとなる。。。大は小を兼ねるという言葉の逆を地で行くことになってしまった。(ちなみに当てはまることわざとして杓子は耳掻きにならずという言葉がある)
・登場からたった7年、本体だけでなくレンズごとゴミになったマウント、それがNikon 1の末路なのだ。
・これがフルサイズミラーレスとなった場合、失敗は許されない。過去のレフ機と互換性のないミラーレスレンズ群をNikon 1のように無に返すわけにはいけないのだ。
(今はなきNikon 1のカメラ。友達がミラーレス買ったよって喜んでた。。)
最後に
・α7が登場してからはや5年。そして最近は3世代機のスタンダードモデルα7Ⅲが発売されました。SONYのサイトでは挑発するかのように”フルサイズミラーレスの新基準へ”・”時代の主役は一眼レフからミラーレスへ”という言葉を高々と掲げている。
・今まで何度もミラーレス元年などと呼ばれていたが、ミラーレスの売上が一眼レフをいよいよ上回り、二強がフルサイズミラーレスを投入する今年か来年(2018年・2019年)が後年ミラーレス元年だと振り返られるのではないだろうかと思う。
・その時、各社の歴史が積もった資産でもあるレンズ群がどうなるのか。フルサイズミラーレスの市場はどのように揺れ動くのか。この一年がとても楽しみだと思う。
・できるなら、ニコンキャノンは一切妥協のない、自社が考える”さいきょうのミラーレス”を出してほしいと思う。